【仲良き事は】幽霊と暮らしてる【美しき哉】別館
349:739◆Al9ki804zA 10/31(日) 19:31 4YatGoV60

それは今から数年前の、求職者支援訓練時代で、しだらがキてから月日がそこそこ経過した頃のこと。

ある日、いつものように支援施設へ向かっていると、不意にしだらが自販機に興味を示した。
「(なんなん?)」訊いてみると、
『俺、これ欲しい』と、指した先にはブラックコーヒー缶(の見本)が。

缶コーヒー自販機価格1本120円。
当時実質無職の私には、結構な贅沢品だったんだ。況して当時ブラックは飲めなかったから尚更に。
しかし、勝手に押しかけておきながらビビられ続けたことに腹が立ってKVを繰り返しては遣使さんに何度も襟首捕まれたり太刀で斬られたり矢を何本も射られたりと連れ返されては戻ってきては節介を焼いて気に食わないとKVを繰り出してはおれに殴り返されてそのまま殺し合いレベルの喧嘩に発展しているとはいえ、持て余していた体質を「なんとか」してくれているのは癪だが事実に相違ない。

なので、適度な見返りは、礼儀の範疇。
「(わかった。終わった帰りに買ってあげるから)」
と、約束して、そのまま施設へと向かった。

そして、終わった帰りに、家の駅のスーパーに寄ったんだ。
向かったのは、缶飲料コーナー。ここなら、種類も豊富で、何より安い。
選んだのは、無香料と謳われたブラックコーヒーを一本。
これなら満足してくれるだろうと、買い物カゴに入れてレジに向かおうとした、ら、

『なんだよ、自販機で買ったやつじゃないのか』

と、嘆息まで聞こえたので、

反射的にカゴに入れた缶コーヒーを左手で鷲掴んでその横ッ面にフックを入れてしまったのは、仕方の無いことなんだ。

そして、殴ったあとで気付いたのは、
「(コイツ、単に自販機の絡繰仕掛けを愉しみたかっただけか)」ということ。

ならこの缶コーヒーは無為だなと思いつつも、外観も中身も変わってないとはいえ曲がりなりにも凶器として使ってしまったため、きちんと購入したんだ。

この翌日、
改めて行き掛けの自販機でブラック缶コーヒーを買ってやった。

ガコンと落ちたソレを手にとってプルトップを開けてヤツに渡すと、ヤツはそれを写し受け取ってぐぃっと一口。
『やっぱ、男はブラックだよな』

言ってろ。

――――
350:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:24 DO+spdJJ0

しだらの誓い


それはしだらがキてから二ヶ月とかその辺りだと思う。

当時の私は、有り体に言って、酷かった。
“たぶん脳梗塞”の後遺症、それによる体質の変化による各種霊障、しだらがキてからマシになったとはいえ神どもの付け狙いとそれら殺消のストレス、後遺症と他神からの何ちゃらをマシにはしてくれているとはいえ、何よりしだらの存在そのものがそもそも神障だ。旧い時代からの土着神の神気にあてられ崩壊し、同時に吸収させられて引き起こる強制再生の苦悶は、福島にいたときの原発事故の放射能被害に酷似している。程度はしだらのほうが圧倒的に上だが、目に見えない無数のガラス片が体内に入り込んで染色体を切り刻んでいく不可視のダメージとそれを負い続ける恐怖と、自己修復機能によって再生した先から更にダメージを負い続けていく終わりの見えない絶望。いっそラクになることも幾度と無く考えたが、そうしたら当時の精神状況では無念・未練の自我が渦巻く下層、地獄の一種とも呼べるような場所に引き込まれ、半永久的に囚われ続けることが直観でわかっていたため、その選択もできなかった。ソコを脱するには、他の自我に喰われるか、ソトのダレかからヨばれるしか、方法はない。
心身だけならいざ知らず、当時は実質無職で私自身に先立つものがない。更に、父は人工透析の兼ね合いで度々入院することがあったが、今回の入院は長い期間(この時点で既に手遅れだったのを知ったのはここから更に三ヵ月後)しており仕事の復帰も不明状態。自分は支援センター通いの日々で、職にありつけるのはいつのこともわからない。
351:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:25 DO+spdJJ0

そんな精神状態最悪な中で、ちゃんと理由があるとはいえコッチの負担をわかった上でヒトに強い神気を浴びせ続けておながら、いつでもハツラツ活き活きとしているしだらの存在は、神気による崩壊再生のストレスとは別に、私に強い陰を落としていた。
「(なんで非人のコイツがこうも情緒豊かで、生身の人間であるはずのアタシがこんな無感動なんだか)」
そもそもこの頃、本当に『恐怖』という感情を持っていたのか怪しかった。
非は向こうにあり法に問われないとしても、自我のある相手を際限なく殺し続けていくことに辟易していた。核の場所を知るために対象とシンクロしたあとで核を壊す手法のため、実質ジブンを殺すようなもの。疲弊しかない。シンクロしなくとも、経験直観で核の場所がわかるヤツはわかるが、ソレをシたら私は真に修羅に堕ちそうで、したくなかった。
いつぞやの夏で雷神が来てしまってから「(助けを求めてしまうとダレかしらがキて周囲に甚大な被害を与える可能性があるから、そもそも助けを求めないように、カルラの力も借りず)ジブンのことはジブンできちんと手を下すべき」と、怯えるだけでなく、自身の力で反撃に転じることを考え、成功した。ただ、状況が予想外の方向へ行ってしまった。後を絶たないのだ。こちらがどんなに辟易しても、消される恐怖よりも好意が勝って嬉々として突撃してくるのだ。恐怖無く向かってくる相手を殺していくと、こちらの恐怖も失せていき、いつしかそれはただの『作業』と化していく。
相手の自我を、好意を、存在を消していくだけの簡単で単純な作業。シンクロすらも、ルーティンの一環に堕ちていく。感慨は失われていくのに、手応えの無さでストレスだけが降り積もっていく。周囲へのポーズで「使おう」と意識的にアタマに命令しなければ、私から感情が生まれることはなかった。
しだらのKVすら、実はどうでも良かった。どうせ現実肉体に反映されることはほぼないのだ。飽きるまで殴らせておけばいいことだった。ただ、余りに終わりがなく、飽きるまで待つのが億劫になって反撃した。それだけのこと。だからこそ、しだらは一層に激昂したのだろうが。悲しさで。ならば、そのまま捨て置けば良かったものを。
352:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:27 DO+spdJJ0

辛うじて、神気だけは肉体の根源的な本能と実際の負担から『恐怖』を「きちんと」覚えられて、精神体の『逃避』が、自動選択された。しかし、逃げても逃げても追い掛けては追い付いて、肉体のある元の次元に引き戻して、浴びせ続ける。機嫌が良いときもKV時もそれは変わらない。いや、機嫌が良いときのほうが神気が純に強まって辛く、KV時のほうが濁ってマシだった。
その神気すらも、いつしか『慣れ』て、何も感じなくなる時が来ると思えば、どうでも良くなってきていた。
背に大きく開いた霊道も、しだらの神気と知らない領域で行なわれているのヤツのメンテナンスで綴じる気配こそ見えてはいるが、見えている程度のまま。相も変わらず油断すると勝手に出入りに使われ、往でも復でも、カラダを媒介にすり抜け出られるカンカクは生理的な気持ち悪さしかなく、何より体力をごっそり持っていかれる。向こうとしては、ただ「見つけた出入り口を通るだけ」の軽い感情なので、私には感知ができず殺すこともできないまま利用だけされて終わってしまう。
全てがどうでも良くなってキているのに、ストレスだけが降り積もって、知らない場所でダメージをもらい続ける。


つかれた。
353:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:29 DO+spdJJ0
「(笑えないなぁ。生身人間より神のほうが、余程に『人間らしい』なんて。あいつのほうが、ヒトとして生きていくのに相応しいだろ。………………なんでアタシが人間しなきゃいけないんだろう)」
――アタシが人間なのは肉体だけだろ、日頃コッチに好意を向けるなんだかよくわからないものを殺し続けて
――そのうち、カラダが人間なまま、バケモノになったり神()になったりするのかなぁ……
――スピ堕ちだけはイタ過ぎて絶対に嫌なんだけどなぁ…………あれ?今も変わんない?
――そしたら何のためにアタシは『人間』でいることにしがみ付いているんだろう
――親への対応がめんどくさいから?あいつらの仲間入りになりたくないから?
――取り繕ったところで中身はとっくに死んでいるのに?
このときの私の目に光などなかっただろう。
「(ああ、でも、せめて、せめて、取り繕いだけは、悪足掻きでしたい)」
ただ、いつか読んだ『東京BABYLON』の、ダイヤルQ2回での桜塚星史郎の見開き1ページを使った長台詞が、辛うじて私と「正気」を繋いでいた。
特別な力、特別な使命。そんなものよりも、普通に生きることが偉いことなのだと。
それが今の私には、ただの「意地」でしかないとしても。
354:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:31 DO+spdJJ0

意地だけで取り繕い生きているジブンにポーズとして形だけの嘲り笑いを浮かべてみせていたら、
不意に、肩を強く掴まれるカンカクがして、意識を向けてみたらそこにはしだらがいた。

ヒトの両肩を強く鷲掴みし、両の目尻からは細い水の線が頬を流れ伝わせ、何かを耐えるように歯を食いしばって、
私を、真っ直ぐに見ていた。
355:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:32 DO+spdJJ0

いったい急になんなんだ?
と、ウザったらしく思っていたら、掴まれた両肩に更なる力が加わって少しだけ顔を顰めた。

しだらが、食いしばっていた歯を、開いた。

――俺がお前を立派な人間にしてやるから

そして、気配が消えた。
356:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:34 DO+spdJJ0

一旦残された私は突然のことに脳内で疑問符を打ちながらも、先のしだらの言に、軽い失望を覚えた。
「(なんだよ『立派』って。結局、お前もあいつらと同じだったのかよ)」
しだらはどうしようもないヤツだが、あいつは、私のリアルでは無用な力を何一つ欲していなかった。引き寄せも、場の無化も、呼び寄せも。方法はわりとクソで力ずくで反動もデカいものばかりだが、それでも私を何とかして助けようとしていたのは、知っていたし、わかっていたし、現に改善も見え始めていた。だから、少しだけ、僅かながらも信を置いていた。
だのに。
「(『立派』にするって、そういうことなんだろ?利用して、知名度をコッチかソッチかで上げて、ジブンの名も、ってやる気なんだろ?)」
しだらも、それらと変わらない存在だった。しかし、私の眼の光は消え切っていたから、それ以上に暗くなりようもなかった。
「(いいさ、お前がそのつもりなら。カラダをどうこうしてくれている手間賃代わりにやってやっても。でもな、変なこと下手なことは絶対にしてやらねえからな)」
と、無い気配に対して釘だけは確りと刺した。
357:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:36 DO+spdJJ0

しかし、一ヶ月経っても二ヶ月経っても「そういうこと」の案件が出てくることはなく、
父の死やその後の処理、母と妹の改めての三人暮らし、就職、愛想尽かしから一人暮らしの準備と引越し、
と、目まぐるしい日々に追われてすっかり忘れ、そして忙しさから抜け出すと気も抜けてしまい、少々のことはあれども「そういうこと」ではやっぱり全くなく。気付けば、忘れたままに、日々をヤツやヤツ達、会社や友人たちとでそこそこ愉快に毎日生きていた。


そもそも、このことを思い出したのも、会社の昼休憩中である。
358:739◆Al9ki804zA 11/10(水) 20:39 DO+spdJJ0

先週の昼に、千切りキャベツを袋のまま食べながらつぶやいたーを眺めていたら、知己の一人が、
『最近無敵の人や刹那的衝動がわかるようになってきた』
『やったら犯罪で刑務所で人生詰むとわかっているけど、そこまでに考える時間を要して危険』
みたいなことを吐露しているのを見て、
「(なんかわかる気がするけど、私がソレわかったのは結構昔な気ガス。いつぐらいだったっけ。まぁ、いいか)」
と、そこで思考を終了させようとしたが、更に思い出したのは、その昨晩にRTしたニーチェ論の引用画像(著:永井均『これがニーチェだ』p23)の、内容だった。

生を肯定できない者にとっては、あらゆる倫理は虚しい。この優先順位を逆転させることはできない。

知己の呟きと昨晩のRT内容が合わさって、やっと数年前のあのことを思い出し、
そして、数年前のあの時にしだらが云っていた、『立派な人間』の本当の意味を唐突に理解してしまい、
心の底からの、絶対的な敗北感を、思い知った。

「(嗚呼、なんだ)」

あいつの意味する『立派な人間』とは、なんてことなかった。
「己の生を愉しんで生きられる」こと、だった。
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