はしがき

 世界が日本戦艦の功績の最新ニュースを固唾を飲んで待ち構える重要なそんな月に、デリケートで皮肉な巡り合わせの元、ラフカディオ・ハーンの優美な日本研究の新刊の発行となりました。ロシアと日本の間にある現在の争いの結果、それは西洋の兵器を装備し、西洋のエネルギーと共にそれを身にまとい、欧米列強の一つに対し慎重に強さを計る東洋の国家の現実にこそ意味があります。誰も世界文明のそのような衝突の結果を予測できるほど賢くは有りません。できるだけ良い方法は、純粋に政治的で現在の戦争に関係した複雑な疑問への統計的な研究よりは、むしろ民族を従える国家的特徴と二つの人種の希望と恐怖に基づく心理状態をなるべく知的に評価する事です。ロシアの人々には一世代以上に渡りヨーロッパの読者を魅了し続ける文学の代弁者がいました。ひるがえって日本には、タージェニッフやトルストイに例えられるような、国家と共に普遍的に認められた人物を持ちません。彼らには通訳が必要なのです。
 ラフカディオ・ハーンが我々西洋人の言葉でもたらした日本の翻訳よりも、東洋人の誰かがいずれ通訳して与えてくれる方が、より完全な洞察と共感を得られるのではないかと疑われるかもしれません。彼のその国での長い生活と柔軟な心、詩人のような想像力、素晴らしく明瞭な文章は最もデリケートな文学的仕事に適していました。彼は不思議を見ました。そしてそれを最高のやり方で語りました。現代日本人の生活の様子はほとんど有りませんし、社会の要素もほとんど無く、政治的、そして現在のロシアとの争いの複雑な軍事的疑問も、これやアメリカの読者を魅了した別の本でも明白にはしません。彼は怪談を「妖しい物の話と研究」と描写し、本によって暗示された沢山(たくさん)の想いが書き留められるかもしれませんが、そのほとんどは不思議である、この事実に始まって終わるでしょう。目次に有る題名を読むと、どこか遠い所で()かれる仏教徒の鐘を聞くような感じです。彼の物語の昔話のいくつかは、さしずめそれは、この時間に日本の装甲巡洋艦の混雑した甲板に居る小柄な男達のまさに魂と心を照らして見えるでしょう。けれど物語の多くは女性と子供達──世界で編まれたおとぎばなしの中で最も愛らしい素材──についてです。それもまた不思議で、この日本の乙女と妻と鋭い目、黒髪の少年少女、我々に似ていてまだ我々に好意を持たず、空と丘と花のすべては我々とは異なります。この我々には非現実的な世界の(かす)かな存在を繊細で分かり易く描き出す達人、現代作家の中ではただ一人であろうハーン氏によってかけられた魔法で、霊的な現実感はいつまでも心に残ります。
 ポール・エルマー・モアによる鋭く美しい評論が「アトランティックマンスリー」1903年2月号に寄稿されました。ハーン氏の魔法の秘密は「三つの道との出会い」に芸術に於ける真実が有るのを見つけ出したと言っています。「インドの宗教的衝動に──特に仏教──日本の美的感覚で歴史が植えつけたものに、ハーン氏が霊魂の西洋科学的解釈を導き出し、この三つの伝統は彼の心の独特な共感によって溶解され、ひとつの斬新な化合物になります──その化合物は前代未聞の心理的大事件を文学に取り入れるほど希少な物です。」モア氏の評論はハーン氏の理解と感謝から高い賞賛を受けました。ここでそれを再び印刷可能であったなら、それは古い日本のこの新しい物語に最高の序論として提供されたでしょう。モア氏が言ったような誰かの要約が有ります。「インドの禁欲的な夢から日本の繊細な美しさと、ヨーロッパの容赦の無い科学が一緒になってとても不思議に混ざり合っている。」
1904年3月

 これから語る怪談や奇談の多くは日本の古い書物に記されている──例えば「 夜窓鬼談(やそうきだん)」「仏教百科全書」「古今著聞集(ここんちょもんしゅう)」「玉すだれ」「百物語」など。物語の(いく)つかはチャイナに起源を持つ物もあるようだ。特に著しい物としては「安芸乃助の夢」が挙げられるが、確かにチャイナに原話がある。けれども日本の語部はあらゆる場面で拝借したものを脚色して違和感のないように取り入れた……珍しい物語「雪おんな」は、武蔵国(むさしのくに)西多摩郡(にしたまごおり)調布(ちょうふ)の農夫が生まれた村の伝説として語ってくれた。既に日本語で筆記されているのかどうかは知らないが、その特異な信仰はかつて日本のほとんどの地域で確かに存在し、沢山(たくさん)の不思議な話が残されている。「力ばか」の事件は個人的な出来事で、話をした日本人の言葉に従って苗字を変更した他は少しの違いもなく起こったまま書き記した。
L.H.

日本国東京1904年1月20日
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