おしどり
その夜、村上は悲しい夢を見た。美しい女が部屋へ入って来ると、枕元に立って涙を流して泣き始めるのが見えた。とてもひどく泣いていたので村上は聞いているうちに、胸が張り裂けるようであった。女は叫んだ「どうして──ああ、どうして、あの人を殺したのですか──罰を受けるほど悪いことをしたのですか……赤沼で一緒の私達は、とても幸せでしたのに──あなたは殺しました……あの人が傷つけたとでも言うのですか。何をしたのかよくご存知なのですか──ああ、どんなに残酷なことかおわかりなのですか、何て罪深いことをしたのですか……私も殺したのです──夫無しでは生きていけないのですから……このことを伝える為だけに参りました……」それからまた大声で泣き出した──身を切るような、聞く者の骨の髄まで貫き通すような泣き声であった──そしてすすり泣き、詩を
日暮るれば誘えしものを──
赤沼の
ひとり寝ぞ
〔日暮になれば、帰ってきたあの人を誘えるのに──今は赤沼のいぐさの暗がりに独りで眠る──ああ、とても言葉にできない、何とも惨めなことでしょう〕
翌朝村上が目覚めた時にも、この夢はありありと心に残っていたので大いに悩んだ。その言葉を憶えていた──「けれども明日、赤沼へお出でになれば、おわかりになるでしょう──おわかりになるでしょう」その夢は何でもない物なのか、それとも唯の夢では無いのかを確かめるため、すぐにそこへ行ってみようと決意した。
そうして赤沼のあの場所の川岸へ行くと、一羽の雌のおしどりが泳ぐのを見付けた。時を同じくして鳥の方も村上に気付いたが、それにも関わらず、逃げようともしないで、しっかりと彼を見据えながら近くへ泳いで来た。それから猟師の目の前で突然くちばしを使い、自らの体を引き裂いて死んだ……
村上は頭を丸め僧となった。